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119話 灰の雪

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-08-01 07:26:35

氷の足場に着地した奴に向かって槍を振り抜く。奴は躱すものの氷の上ではコントロールが効かず体勢が揺らぐ。

一方私達は足に氷を纏い、プロスケート選手の用に土の地面と変わらず巧みに動く。槍が奴を追い詰めていき、ここから飛び降りようとしてもそれより早く壁を作るので間に合わない。

「うぐっ……!!」

槍の先が奴の腹を擦り法衣が少し破ける。そこからは垣間見える白い肌。掠った一点が赤く腫れており、奴の表情に焦りが見え始める。

「こんなところで……やられてたまるか!!」

奴は空中で身を捩り壁に着地する。私達が作ったそれを利用し跳躍力をスピードに加算する。

「くっ……え?」

防げるかどうか怪しい速度だった。だがマントのように背中についていた複数の長いリボンが蠢き出し、奴の腕に素早く巻きつく。

[やった! こっちも動かせた!]

[このリボン波風ちゃんが?]

[うんそうみたい! よーしこのまま押し切るわよ!]

リボンが奴を持ち上げ壁に叩きつけ、壁の根本を槍で突き粉々にし奴を宙に浮かせて行動を制限する。

「これなら躱せない……!!」

空中でもがく奴に接近し、銃口を腹に突きつける。

「ファイアー!!」

銃口にエネルギーが溜まりそこから衝撃波が出され奴に零距離で直撃し、その余波で足場は壊れ各々地面に着地する。奴は着地とも言えない体の打ち方だったが。

「ふぅー……」

全身の力を抜き、その分を右足に込める。地面が凍てつき私達の右足が氷に覆われていく。しかしその内側はとてつもないエネルギーを秘めており、限界まで溜め切った後地面を蹴り奴に向かって駆け出す。

「せいやぁっ!!」

掛け声と共に奴の腹を蹴り抜く。落下の衝撃で怯んでいた奴は躱すことができず、蹴られた箇所が氷で包まれる。

「バースト!!」

氷は爆ぜ、そこから放たれる溜めたエネルギーが奴の法衣を破き散らばらせる。

「がはっ!!」

法衣が剥がれ、元の人間態の姿となった奴が地面を激しく転がる。

[高嶺壁から離れて!!]

波風ちゃんが何かを察知し頭の中で声を張り上げる。即座に後ろに跳んでその場から離脱すると、近くの壁が吹っ飛びそこからハンマーの奴が吹き飛んでくる。

(危な……あの場所に居たら巻き込まれてた……)

「痛たた……って、メサ!? 大丈夫かい!?」

私達が今
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